シルクロード日誌

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映画「ウイグルからきた少年」とは何か!
                    091112 野口 信彦

芸術とりわけ映画などの表現芸術は、創作する側の主観が入るわけですから、傍観者いやいや鑑賞する側はなかなかその真意を理解することは難しいものです。

しかし、きのう見た「ウイグルからきた少年」は、主体の側はどうにでも説明・評価・解説はできるでしょうが、少なくとも私ときのう映画に案内したウイグル人の友人が理解することにはとても難しいものでした。

広く宣伝されている映画紹介の内容は次のようなものでした。
「3つの絶望と破滅が、発展と貧困がモザイクのように色なすカザフスタンで交差する。
中国・新疆ウイグル自治区から逃げてきたウイグル人の少年アユブは、建設途中で打ち捨てられた廃屋で、カザフ人の少年カエサルとロシア人の少女マーシャと共に兄弟のように暮らしていた。ある日、廃屋の管理人でチンピラのプラートが『良い話がある』とアユブをたずねてくる。アユブは『捕らえられた母を助け出す』という約束を信じ、大人たちの思惑によって自爆攻撃者に仕立て上げられ、破滅への道を静かに進んでいく」とありました。

映画批評などまったく経験がありませんが、批評に必要なことは、主観的・感情的な批判をしない。つとめて客観的な評価をする、観衆がどのような見方をしているかを大切にする、くらいの判断基準は必要だと思っています。 

しかし、あの映画を見て「感情的」になったのは一緒に行ったウイグル人の友人でした。
「この映画は一体何を言いたいのでしょうか」と怒りを隠さない彼女は映画がまだ完全に終わっていないのに「野口さん、帰りましょう!」といって出て行ってしまいました。

かく言うわたしも、頭の中は「監督の佐野伸寿氏は、たまたま防衛庁からカザフスタンの日本大使館に勤めて、それもたまたま亡命ウイグル人の存在を知って、たまたま資金と条件がそろって映画を作っちゃったのだろう」と思い、「こういう程度の映画は、他人から金を取って見せるのでなく、親戚や仲間内で上映会をやればいいのに・・・」と思ったものです。

時間の調整が難しく、その日は会場の「渋谷アップリンク」へ着いたのが、開場の6時半の2時間前でした。
そこで、帰国を数日後に控えた友人と久しぶりにゆったりとした気持ちであれこれ話し合う時間ができました。

ビールもおいしく、ベトナム料理はあまり口に合いませんでしたが、映画館のあるレストランに座っているのに、ウイグル人の友人が近くのコンビニから買って来た「おにぎり」をほうばりながら、シルクロード研究のこと、ウイグルのこと、互いの今後の共同研究の課題などについて話していました。

率直な感想は、そんないい気持ちで時間をつぶして映画の上映を待っていた、その貴重な時間を、コナゴナにされ、無駄にされたという気持ちでした。

映画はだいいちに、ストーリーに脈絡がない、映画に系統性がない、場面の転換に必要な次善の説明シーンがないという問題。
ムスリムのウイグル人は、子どもとはいえ自殺はしない、という考え方をまったく無視した、アラブの国、イラクなどの「自爆」を乱暴に持ってきた設定はあまりにも無理がありました。あまりにも主観にすぎました。愚作です。

それよりも、なぜ数十万人ものウイグル人がカザフスタンの地に亡命せざるを得なかったのかという紹介くらいはほしかった。
おかしいとはいえ、少年が「自爆の道」に進むに至る説明くらいはほしかった、カエサルがなぜ殺されるのか、幼く可憐な少女マーシャが売春をしているが、なぜなのか、結核で血を吐きながら、何を求めていたのか、おまけに「その日、カザフの人びとは平穏な日を過ごした」、まるでチンプンカンプンでした。

会場を出ようとした彼女に、アップリンクの係りの女性が、「映画終了後、監督と(報道カメラマンの)宮嶋茂樹さんのトークショーがありますので・・・」というのを、「この映画はナンデスカ!何を言いたいのかまったく分かりません!」と怒りをぶつけていました。

係りの女性に文句を言ったって仕方がないよ、といっても、彼女の怒りは収まりません。「トークショーに私がいたら、監督に文句を言ってしまいますから、その場にいたくありません!」と私にまで、怒り出す始末でした。
結局、渋谷の駅まで、電車での新宿まで怒りは収まりませんでした。

会場で出っくわした日本ウイグル会議のメンバーの知り合いも、私たちが会場を出るとき「何の映画なのかサッパリ分かりません」といっていました。

おそらく、日本映画で直接、ウイグルを描いたものは初めてではないかと思いますが、それがこんなものだったとは、まったく腹立たしいばかりです。
| コメント | 07:22 | comments(1) | trackbacks(0) |
コメント
既に映画を見ていた友人の評価は軒並み低いものでしたが、ここまでとは…。
トークショウの後の質疑応答で監督から説明があってようやく判明したことは、
主人公の少年をテロリストに仕立て利用した組織は、キルギスでの日本人拉致事件
を起こしたウズベキスタンのイスラム原理主義組織のような団体で、最後テロが
起こらなかったのは、少年が結局テロを実行するという選択しなかったこと
を意味し、ウイグル人の平和主義を強調したかったらしいです。なぜ主人公を
ウイグル人にしたのかという問いには、カザフスタンで前回制作したの映画で
知り合ったウイグル人の少年(?)がとても素直でいい子だったからだと言って
ました。つまりこの映画はウイグルそのものがテーマではないんですね。
映像は美しかったし、タイトルに「ウイグル」の文字が躍っただけに残念でした。
| けんちゃん | 2009/11/12 7:25 PM |
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