シルクロード日誌

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2月18日の「森安通信」
  不定期ですが、「森安通信」が送られてきました。冒頭の「(2月17日)の朝日新聞夕刊に,6世紀後半の北斉時代に中国で活動したソグド人の墓から出た石棺床(寝台)の記事がやや大きく掲載されていました」とあるのですが、東京方面の朝日夕刊には掲載されていませんでした。朝日大阪本社版だと思いますが、私たちの関心を大いに引くものですので、ここに全文をコピーして掲載させていただきます。
 東京本社版には、「樹下美人図」(作者不明) 婦人が見つめる先は  と題する、大谷探検隊が持ち帰った資料の掲載があります。どちらにせよ、うれしいことです。


きょう掲載する森安先生の写真は、15年11月23日に開いた
「日本シルクロード文化センター創立10周年」での映像です。

森安通信 読者各位

 昨日(2月17日)の朝日新聞夕刊に,6世紀後半の北斉時代に中国で活動したソグド人の墓から出た石棺床(寝台)の記事がやや大きく掲載されていました。我々のよく知る関西大学の森部豊教授が関わっているプロジェクトの紹介であり,ソグド人が学界以外で話題になるのはとてもありがたいことです。因みに似たような石棺床は,滋賀県のMIHO美術館にも所蔵・展示されていますが,近年,西安や太原で同様の物が出土しており,これらについては日本語・中国語の報告書が幾つも出版されています。ところが,今度は英語で石棺床を比較研究した次のような本が出ました。これにはソグド人の漢文墓誌のカラー写真も含め美麗な図版が豊富に掲載されています。
 P. Wertmann, Sogdians in China. Darmstadt: Verlag Philipp von Zabern, 2015.  17200


 石棺床を残したソグド人の大部分はゾロアスター教徒と思われますが,マニ教徒も混じっていたと主張する研究者もいます。
 一方,最近の欧米の東洋学界では,中央アジア〜中国のキリスト教史研究が一種のブームになっていて,以下に列挙するような論文集や単行本が次々に刊行されています。その大きな理由は,モンゴル帝国〜元朝以前の中国のキリスト教遺物として長らく唯一であった大秦景教流行中国碑(たいしんけいきょう・りゅうこうちゅうごくひ;唐代長安に建立)に加えて,21世紀に入ってから洛陽で新たに唐代の景教経幢(きょうどう)が出土したからでしょう。キリスト教徒が多数派である欧米人にとっては,モンゴル帝国以前のアジアにおいてキリスト教徒が活躍した痕跡を探るのはたいへん興味のあることらしく,大きな研究資金もどこかから出ているようです。かつて明代に,唐代以降ずっと土中に埋もれていた大秦景教流行中国碑が再発見された時は,ちょうどイエズス会士が中国に進出を開始していた時期と重なったため,その研究が欧州で一大ブームになったのですが,それと似たような状況が21世紀初頭にも出現したわけです。

 景教経幢の経幢というのは,基本的には仏教のもので,「仏頂尊勝陀羅尼経」などの仏典(の一部)と建立の由来・寄進者名などを彫りつけた石柱のことです。幢(どう)の本来の意味は「はたぼこ」です。幢は幡(ばん=はた)と合体して幢幡(どうばん)という熟語になります。幢幡は仏教寺院の本堂内部などに荘厳(しょうごん=装飾)のために天井からぶら下がっている布製(多くは錦や金襴で豪華)または金銅製の六角形のはたぼこを指しますが,経幢というのは境内の地上に建てられる石柱で,多くは八角形をしています。

 洛陽新出土景教経幢に彫り込まれていたのは「大秦景教宣元至本経」というもので,そのタイトルを見ただけでも驚きですが,関係者であるキリスト僧の本名が「米姓」と「康姓」であって,明らかにソグド人なのです。また漢字のほかに景教特有の末広がりの十字架のレリーフがあり,その左右を囲むレリーフはなんと飛天(ひてん)でした。言うまでもなく飛天とは,中央アジア〜中国〜日本の仏教壁画に典型的なモチーフです。 この景教経幢は確かにキリスト教の物ですが,随所に仏教文化の影響が見られるようです。

 なお,私は相変わらずネストリウス派キリスト教(景教)という言葉を使っていますが,最近の欧米学界ではChurch of the East「東方教会」という呼び方に変わってきつつあります。でも,東方教会では日本語で「ギリシア正教会+ロシア正教会」などを合わせて言う場合と混同され,誤解が生じる恐れが大です。




 以下に近年の欧米の景教関係出版物を列挙しますが,これは主に東洋学の研究者や院生向けですので,興味のない方は無視して下さい。
 R. Malek (ed.), Jingjiao 景教. The Church of the East in China and Central Asia. (Collectanea Serica), Sankt Augustin: Institut Monumenta Serica, 2006.
 D. W. Winkler / Li Tang (eds.), Hidden Treasures and Intercultural Encounters. Studies on East Syriac Christianity in China and Central Asia, Zürich / Berlin: LIT Verlag, 2009.
 Li Tang, East Syriac Christianity in Mongol-Yuan China. Wiesbaden: Harrassowitz Verlag, 2011.
 Li, Tang / D. W. Winkler (eds.), From the Oxus River to the Chinese Shores. Studies on East Syriac Christianity in China and Central Asia. (orientalia - patristica - oecumenica, 5), Zürich / Berlin: LIT Verlag, 2013.
 E. C. D. Hunter, / M. Dickens (eds.), Syrische Handschriften, Teil 2: Texte der Berliner Turfansammlung (Syriac Texts from the Berlin Turfan Collection). Stuttgart: Franz Steiner, 2014.
 P. G. Borbone / P. Marsone (eds.), Le christianisme syriaque en Asie centrale et en Chine, (Études Syriaques, 12), Paris: Geuthner, 2015.
 P. Zieme, Altuigurische Texte der Kirche des Ostens aus Zentralasien. (Gorgias Eastern Christian Studies, 41), Piscataway: Gorgias Press, 2015.

 これらはほぼ全て阪大東洋史で購入済みです(最後のツィーメ先生の1冊だけ未購入)。興味のある方は,今春の4月2日(土)に阪大で開催される中央アジア学フォーラムの時に御覧下さい。前もって関係者に連絡していただければ,なお確実です。
              不具  2016218日    森安孝夫
 
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