シルクロード日誌

日本シルクロード文化センターのブログページです。シルクロードに関する情報、コメント、旅日記などを綴ります。
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森安通信2月9日号

※日本シルクロード文化センターの創立10周年記念で記念講演をいただいた大阪大学名誉教授の森安先生の「森安通信」が来ました。せっかくですので皆さんにご紹介します。

 

森安通信 読者各位

 

 2020年1月10日(金)にNHK BS1で放映された天安門事件を30年後の今になって検証した番組は,本当に見応えがありました。この頃は国内では何かと批判のあるNHKですが,この番組は世界中に散らばっている当時の関係者にインタビューし,これまでまったく知られていなかった資料も掘り出しています。学生の民主化運動に理解を示していた趙紫陽総書記が,最高権力者の小平とその下に就く李鵬によって失脚させられた経緯や,それまで人民には決して銃を向けなかった人民解放軍が,初めて人民に発砲し,戦車で学生たちをひき殺していった様子もうかがえ,穏やかな口調ながら権力者というものの恐ろしさを,浮かび上がらせてくれました。きっと再放送があるでしょうから,その時は是非御覧下さい。

 

 次いで1月13日に放映されたNHKスペシャル「アイアンロード〜知られざる古代文明の興亡」の方は,シルクロードの「草原の道」の重要性を再認識しながら,その厳しい自然環境と景観を知ってもらうにはとてもいい番組でした。もちろんその重要性を際立たせるために鉄に注目したわけで,鉄の専門家として世界で活躍している愛媛大学の村上恭通教授と笹田朋孝准教授,そして長年トルコに定着してヒッタイトやそれ以前の鉄を発掘した大村幸弘・中近東文化センター研究員の活動の一端が紹介されたのも有意義でした。ただ,些か残念だったのは,恐らく番組ディレクターの独断か勉強不足により,シルクロード以外にアイアンロードなるものが新発見されたかのような誤解を視聴者に与えたことです。画面に映し出された地図上のシルクロードは,最初に西欧の研究者が「シルクロード」と言い出したときの古い概念である「沙漠オアシスの道」だけを指していました。確かにスウェーデンのヘディン,イギリスのスタイン,ドイツのルコック,フランスのペリオ,日本の大谷探検隊などが遺跡や古代文書を掘り出したのはこの地帯だったのですが,主に戦後になって日本の東洋史学がおおいに発展した結果,北方の「草原の道」と南方の「海の道」も合わせてシルクロードと呼ぶようになったのです。ですから1980年からNHKが放映して大評判を取った特別番組「シルクロード」でも,「沙漠オアシスの道」だけでなく「草原の道」も含めて取材しています。

 

 今回の放送ではナビゲーターの江口洋介さんに「アイアンロードはシルクロードの北側」にあると説明させていましたが,そうではなく「アイアンロードはシルクロードの草原の道に相当する」と言えばよかったのです。シルクロード(絹の道)という実際の道があるわけではなく,あくまで概念上の交通網ですから,着目するものによっていくらでも言い換えることが可能であり,実際にこれまでも「銀の道」「玉の道」「ガラスの道」「琥珀の道」「毛皮の道」,あるいは文化面では「仏教の道」,海の場合なら「香料の道」などという使われ方をしてきました。私の定義するシルクロードは,「近代以前においてユーラシアの東西南北を結んだ高級商品流通と文化交流の幹線道路網」であり,同じことをやや抽象的に言えば,「前近代のユーラシア世界史という有機体を物心両面で支えた大動脈の雅称」です。それゆえ,鉄が貴重品であった時代において,「アイアンロード(鉄の道)」と言っても何ら差し支えありません。ただ注意したいのは,「鉄の道」とか「仏教の道」とかいう場合は一回性の伝播経路であるのに対して,「絹の道」とか「銀の道」「玉の道」「ガラスの道」「香料の道」などという場合は,そうした奢侈品が何万回,何十万回と繰り返し運ばれたことを意味します。

 

 シルクロードはネットワークですから,草原の道も一本だけではありません。1月1月25〜26日(日)に石和温泉にある帝京大学・文化財研究所で開催されたシルクロード学研究会は,草原の道の枢要な部分を占める現キルギスのチュー河流域に点在する遺跡,特にアクベシム遺跡(スイアブ=砕葉)に関わる考古学的報告が中心で,とても充実した内容でした。スイアブはソグド人によって作られた都市で,唐代には安西都護府の支配下に入った時期があり,その後はトルコ系のトゥルギシュ(突騎施)やカルルク(葛邏禄)が支配し,さらにカラハン朝・カラキタイ・モンゴル帝国へと続いていきます。当研究会では吉田豊・京大教授の「シルクロードを東へ向かったキリスト教」,高橋英海・東大教授の「中央アジアのキリスト教:シリア語研究の観点から」,そして私の「トルコ民族とキリスト教」という文献学的な発表もありました。私の発表では,昨年末に出版されたばかりの T. Moriyasu, Corpus of the Old Uighur Letters from the Eastern Silk Road. (Berliner Turfantexte 46, Turnhout: Brepols, 2019) に含まれるキリスト教徒の手紙も引用しました。この拙著は私のライフワークの一つである「古ウイグル手紙文書集成」の英語版ですが,40年以上かかりました。もうとても日本語版を出す気にはなれませんので,学問的に興味をもたれた方はこれを見ていただきますよう,よろしく御願い致します。

 

 2月24日(祝日)には池袋の古代オリエント博物館で「西アジア考古学 トップランナーズセミナー」が開催されます。学習指導要領の改訂により高校の歴史教育がまもなく「歴史総合」という近現代史中心となりますが,それに連動して古代史への関心が薄らぐ懸念があります。それへの対策として古代オリエント博物館でもあれこれ啓蒙活動をされている一環であり,当日の参加者には『高校世界史 試験を楽しむキーワード100』という小冊子が全員に配られるそうです。また現在,東京駒込の(公財)東洋文庫では「大清帝国展」が開かれています。5月中旬までです。以上二つのイベントの案内チラシをここに貼り付けます。

 

         不具    2020年2月9日      森安孝夫

 

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